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IV 文化活動を通しての取り組み

9 大人と子どもで歌う合唱団
 「ぐんま子どもの人権宣言合唱団」
 歌に寄せる団員の思い

横田 公代(ぐんま子どもの人権宣言合唱団)

 「ぐんま子どもの人権宣言合唱団」は、1996年10月に、合唱組曲「子どもの人権宣言」(清水則夫・高原久美作詞、藤村記一郎作曲)を歌うために結成されました。この合唱組曲は、子どもの権利条約を広めるために作られたものです。合唱団は今年の10月で10年目を迎えました。
 県内では珍しい、大人と子どもで歌う合唱団です。団員は、家族での参加はもちろん、大人だけ、子どもだけの参加者も含め、現在(10期)は大人40人、子ども55人の構成です。これは、この10年間、多少の増減はあっても、ほぼ同じような状況です。
 毎年1回行われるコンサートのために団員を募集し、コンサートが終わると、その期は解散して、また次の期の団員を募集していくので、大人も子どもも団員は毎回約3分の1が変わっていきます。特に、子どもの場合は、中学生になると部活動や受験対応のための通塾などで、合唱団には通いたいけれど通えなくなってしまう、といったむずかしい状況があります。しかし、それでも退団はせず、時間を生み出しては通ってきてくれる中・高生の頑張りが、後に続く小学生の手本となり、子どもたちが順々に育っていくという好環境も生み出されてきました。
 土曜の夜の6時半から9時まで、公民館に集まって“歌を歌う”。ただそれだけなのに、パワフルな活動は10年変わらず続いています。
 10年をふり返り、今までに合唱団にかかわってくださった人たちの想いを、コンサートの際にまとめる団員の声や、観客のアンケート、現在の団員の声などからまとめてみます。

 結成当初は、合唱団として継続していくつもりもなく、合唱組曲「子どもの人権宣言」を歌いたいという熱い想いだけで行った1回目のコンサートでした。でも、終了後の反響の大きさに後押しされて、その後1年間に2回のコンサートを開催しました。次の団員の声は2回目のコンサートの時のものです。(一部抜粋)
◆ 始めてからすぐに歌を歌うことが楽しくなりました。学校じゃ大きな声で歌うのは恥ずかしかったので、余計にそう思えました。「人権宣言」の歌にはいろんな感情がつまっていて、楽しく歌っていられる曲ばかりじゃありませんが、歌っていいなあ、とやっぱり思います。僕は「今は小さなことでも」という曲が一番好きです。“それは小さなことでも、今は小さなことでも、大きく育てていけば、みんなで広げていけば、明日は大きなことに、きっとつながっていくはず”という歌詞です。何か人生におけるあらゆるものを表しているようで、いろいろ励まされたりするんです。
(高校1年・男子)

◆私は、この「子どもの人権宣言」の歌が大好きです。とても楽しいです。この歌を歌うようになって、私は“人権”“自然”のことについて以前よりもいろいろ考えるようになりました。だから、この歌を聞いてくれた人たちが“人権”や“自然”について少しでも考えるようになってくれたらうれしいです。この歌を、この思いをもっとたくさんの人に伝えたいです。
(中学1年・女子)

◆合唱団に来て、友だちがたくさんできました。「人権宣言」の歌は、私たちの言いたいことがたくさん入っています。いっしょうけんめい歌うので、聞いてください。
(中学1年・女子)

◆音にうまくのって歌を歌っています。歌っていると、風が吹いてきて、明るくなるような気がします。
(小学3年・女子)

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 こんな重い内容の心情を寄せてくれた団員がいました。
◆毎日毎日、執拗にくり返されているいじめ。手首を切った夜。そして不登校。あの時の恐怖、せつなさ、怒りは、20年近くたとうとしている今でも忘れることができない。天真爛漫だった私の心を、人間への不信感や猜疑心で真っ黒にするのには充分すぎた3年の時間。  大人も信頼できる存在ではなかった。「いじめられる方にも悪い所はある。」そう言った担任。なんなんだ、あなたは。「いじめになんか負けるな。そんな弱い心でどうする。頑張りなさい。」そう言った両親の気持ちも重い。「私、ガンバッテいるんだよ。でも、もう限界なんだよ。」心で叫ぶ。
 いつも下を向きオドオドとし、人の評価を気にするあまりに変に八方美人。そんなふうになってしまった私に、楽しい人間関係が築けるはずもなく、社会人になってからでさえも、小さないじめが心に突き刺さっていった。ほんのわずかな友人との思い出以外、10代の記憶を私は消してしまいたい。
 そんな私に、心を解き放てる時が来た。19歳の夏。「うたごえ」との出会いだった。ありのままの自分を、もともと好きだった歌にのせて表現ができる。そんな私をちゃんと受けとめてくれる仲間がいる。自己表現を保障されると人はこんなにも生を楽しむことができる、と身をもって知った。
 そして10何年か。今、私は2人の子どもの母親だ。一見平和そうに見えて、実は子どもが本来の姿で、自由に健やかにくらし、育つことが難しいこの国で、私は母として何をしてやれるだろう。20年前の恐怖がよみがえる。あんな思いだけは、我が子にさせたくない。すべての子どもたちに、生の喜びを、大切さを、輝きを知ってもらいたい。私たち大人の役目として、それを保障してあげたい。
 母として、保育者として第一歩を歩み始めたこの時に、この歌に出会えたことを幸せに思う。
子どもの命かがやけ!
    大人たちの命もかがやけ!
       自分を信じる力を育てよう!
日本中の人びとに、世界中の人びとに、この歌が届くよう願ってやまない。
(30代・女性)
 「人権宣言」の曲の中に「学校嫌い」という、いじめを題材にした曲がありますが、この女性は、この歌が歌えない、とずっと話していました。彼女にはかける言葉が見つかりませんでした。できることは、一緒に歌うことだけでした。この歌から逃げずに歌と向き合う彼女の心を多くの人に知ってほしいと思いました。

   歌に励まされたという想いもありました。
◆私は去年のコンサートにきて、強く心をうたれました。受験の前で、不安だらけでつぶれそうだった私の心を奮い立たせたのがこの合唱団の歌声でした。私は大きな感動とともに、歩き出すPowerをもらいました。そして、今年、団員として参加しています。今日は私がみなさんに感動とPowerを与えられるように一生懸命歌います。
(高校1年・女子)

◆せんそうは、やってはいけないことです。せんそうを「やりたい」という人は、やっていいことと、やってはいけないことの区別がついていない人です。せんそうをする人は、やっていいのか、やってはいけないのか考えましょう。
(小学3年・女子)
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 3回目のコンサートのあと、継続した合唱団運営をしていくことが決まり、現在に至っています。たくさんの人が「子どもの人権宣言」の歌に共感してくれましたが、中には、こんな大変な歌を歌う合唱団には入れておけない、と子どもを無理矢理やめさせる保護者もいました。また、学校で、公演をさせてほしいと申し入れをしたところ、学校で歌わせていい歌なのか、と強行に反対した教員もいました。子どもが主役の学校でこそ歌われなければならない歌なのに・・・・・・・・・。

 次は、第5回目のコンサート合唱組曲「とべないホタル」(小沢昭巳原作、清水則夫作詞、藤村記一郎作曲)公演後の観客のアンケートからです。
◆6年1組のM君や友愛学級の子どもたち、学校にうまく適応できない子どもたちのことを想いながら見ていました。みんな幸福になりたい、認めてもらいたいと願っているのに。私は今、日系ブラジル人の子どもが日本で生きやすくなるような活動をしています。はじめたばかりですが、少しの勇気をもってすすんでいくつもりです。
(女性)

◆子どもたちの張りのある明るい歌声に励まされました。
(61歳・男性)

◆いろいろな方々が集まった団員の皆さんの、その姿が平和をあらわしていると感じました。私は私でいいんだ、あなたもあなたでいいよ・・・という気持ちをもらいました。
(39歳・女性)

◆コンサートではとても大きな勇気をいただきました。きっと私にも勇気をもって、いろいろな人を助けることができると思いました。
(23歳・女性)

 このコンサートの団員の声の中に、こんな文を見つけました
◆この合唱団に入ったお陰で、大人になってから持った夢を実現させてみたくなりました。ただ今、3人の子どもたちの母ですけれど、学校へ行って勉強しています。毎日、仕事と妻と母と学生と忙しいけど、やる気にさせてくれる、そんな仲間が集まったところです。楽しいんだ!!
(30代・女性)
 彼女は今、学校も終わって、看護師さんとして活躍しています。

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 さて次は、現在の団員の声です。
◆親子で歌える合唱団なので歌い続けてこられました。子育ての悩みを話したり、職場や家族のぐちを聞いてもらったり、この10年間で心もずいぶん成長しました。毎週、来るまではくたくただけど、子どもからパワーをもらい、ストレスを吐き出して元気いっぱいで帰ります。
(片道1時間半かけて通ってくる団員。母娘3人で参加。30代・女性)

◆共通のおもいを持って一つひとつの「うた」に取り組み、毎回少しでも前進する楽しみが最高です。指導者を中核に構成されたビッグファミリーの居心地の良さ。胎児から(注:妊娠しているお母さんがいた)70代までのアットホームな集団。歌う内容と質と格調の高さ、希望をもらっています。でも、「子どものくせにと言わないで。ぼくらの声を聞いてください」などという歌を歌わなくてもいい世の中にしなければと思っています。
(60代・女性)

◆母と娘での参加。2人で参加して1つの作品をつくり上げるという機会は、日常生活の中ではない貴重な時間です。娘が大人になった時、2人の大切な宝物になればいいな、と思っています。
(母娘で参加。30代・女性)

◆今の世の中は、人への思いやりが少なくなってきている。自分の心の中にもそんな気持ちがある。でも、この人権の歌を歌うと、人を思いやれる人間になれる。子どもたちにやさしくできる。人間らしくいたいので歌を歌っていると思う。あとは、合唱団のみんなといると楽しいし、歌ってストレス発散にもなるし!
(家族5人で参加。30代・男性)

◆子どもを大切に思う大人や、元気いっぱいの子どもたちと歌が歌えることが楽しい。指導者のピアノで声を出すことで1週間のストレス発散と、次週への活力をたくさんもらって帰ります。子どもが子どもらしくいられる社会を大人が守っていけるよう、歌を通して伝え広げていきたいです。
(親子3人で参加。30代・女性)

◆この合唱団で、相手を思いやる心、自分を大切にする心を、歌を通して子どもたちといっしょに歌ってきました。いつも胸がいっぱいになる思いで歌っています。大勢の子どもたちが合唱団を巣立っていき、いろいろなところで活躍している話も聞けてうれしくなります。
(結成からの団員。60代・女性)

◆合唱団に来るのは、いい歌を選んで歌っているからです。歌うことはどんな歌でも楽しいけれど、いい歌に出合って自分の想いが出せるのが本当にステキなことです。最初の頃は自分が歌うことだけに夢中になっていたけれど、最近、聞いてくれる人に“伝えたいなあ”という気持ちも強くなってきました。
(指導者に魅せられている母娘2人で参加。40代・女性)

◆指導者のピアノ、雰囲気、選曲がいい。それぞれの歌のテーマやメッセージがはっきりしていて、それでいて直接的でなく音楽性に富んでいる。今の世の中について、また、人間・人生というものについて、思いを込めながら歌える歌が多い。そんな理屈ではなく、ただ歌うだけで心が満たされ、浄化される。大人だけでなく子どもと一緒に歌えるということも貴重。こんなに大勢の大人と子どもが一つのものを創り上げるということは、他にはないだろう。“期”ごとに団員募集をするので、メンバーが固定されず、新陳代謝されるのもいい。
(50代・男性)
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 子どもたちもたくさん声を寄せてくれましたが、ほとんどの子が同じように書いています。
◆歌が好きだから!歌を歌っているといろいろな気持ちになれる。喜んだり、悲しんだり、怒りたくなったり・・・。いろいろな歌を歌えば歌うほど、いろいろな気持ちになっていく。だから歌うことが大好き。
(小学6年・女子)

◆合唱団のたのしいところは、友だちがいるし、みんながやさしくしてくれるから。
(小学2年・男子)

◆平日、学校での勉強や仕事で蓄積されるストレスや疲れ。合唱団で歌ったり、話したりしていると、それらを忘れることができます。いつも元気をもらっています。有難う!!
(高校3年・女子)

 みんな歌を歌うことが楽しい、大きな声で歌を歌うとストレス解消!!と言っています。元気な子どもたちがこの合唱団の宝物であり財産です。
 なぜ10年間も生き生きした合唱団活動が続いているのか、団員の想いを整理してみました。
  1. 人からの押しつけや強制ではない。また、使命感でもない。ただ歌いたい、歌ってまず自分が楽しいということが、誰にも共通する素朴な原点だと思います。
  2. でも、それだけなら、他の合唱団や趣味のサークルと同じです。人権宣言合唱団の魅力は、団員の想いにたくさん書かれているように、曲への思い入れ、受け止め方に一人ひとりとても強いものがあり、また多様であることです。その多様さは、取り上げる作品や指導者に内在する魅力からくるものだと思います。しかし多様さの中にも大きな共通性があります。それは、子どもたちの幸せや、平和に満ちた将来を願う気持ち、人間の素晴らしさ等に共感しながら歌っているということです。それらはみな、取り上げる作品のテーマにもなっていることです。
  3. さらに、優れた個人や少数のグループが表現するのと違い、合唱は一人ひとりの声が集まり一つになってこそ素晴らしい表現になります。ですから、一人ひとりの存在が大切で、大人も子どもも、そこにいる全員が主人公なのです。そういう意味では、合唱団は団員にとっての「居場所」になっているのだと思います。
  4. そして、大人と子どもが一緒に歌っているこの合唱団では、子どもたちは大人の従属物ではなく、むしろ、大人は子どもたちの力を信じ、時には子どもたちに頼り、子どもたちのエネルギーとまっすぐに伸びた歌声(心)を、いつも感嘆して聞きながら大切に思っています。パワーとエネルギーをたくさんもらっていることを喜んでいます。ここでは、子どもも大人も主人公なのです。それがぐんま子どもの人権宣言合唱団の今です。
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 最後に合唱団の子どもから大人へのメッセージです。
◆世界中の人がやさしくて、みんなが友だちみたいな世界になってほしい。世界中の子どもが学校に行けて、みんな食べ物が食べられる、そういう世界になってほしい。
(小学4年・女子)

◆地球が平和になったらいいな。
(小学2年・男子)

◆子どもの言うことも聞いてほしいです。子どもにだって考えはあるんだから、大人の考えをむりやりおしつけずに、まずは子どもの気持ちも聞いてほしいです。暴力をふるわないでください。怒るのが私たち子どものためなら、ぶったり、けったりしないでほしいです。「バカ」とか「出て行け」とかの言葉も言わないでほしい。大人は何気なく言っているつもりでも、子どもはとっても傷ついているから。
 (小学6年・女子)

◆いろいろな人に頑張れって言われるけど、私は一生懸命頑張っているんだよ。頑張っているときに欲しいのは、“頑張れ”じゃなくて“頑張ってるね。お疲れ様。”そう言われるともっと一生懸命になれるんだ。あと、抱きしめて欲しい。「大好きだよ」って。そうするとホッとできる。前に進める。大好きな笑顔が背中を押してくれるから。そうしたらきっと、私も素直に「大好き」って言えるはずだよ。
(高校3年・女子)
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