群馬の子どもの実態を報告する基礎報告書>2006-07 12

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VI 群馬子どもの権利委員会の取り組み

12 第2回子どもの権利市町村アンケートと自治体訪問

 子どもの権利条約を意識して子どもの権利の実態と自治体の仕事を繋ぐことは、群馬子どもの権利委員会の重要な仕事です。日本政府に対する第1回国連勧告が出たあとも、県内各市町村に子どもの権利に関するアンケート調査を実施しましたが、今回も第2回国連勧告を受けて、2005年9月にアンケートを発送し、同年末までに全54市町村中11市全部を含む41市町村(全体の75.9%以上)から回答が寄せられました。  アンケート項目は前回をほぼ受けついで、大略次のようなものでした。

  1. 子どもの幸福や権利にかかわる職務は、どの部署で行っておられますか。
  2. 国連からの第2回勧告に関して、国や県から何らかの情報や通達がありましたか。
  3. 子どもの権利条約や第2回勧告を、どのようにして住民に知らせておられますか。
  4. 公立学校職員や社会教育職員に対して、どのような研修をしておられますか。
  5. 条約と勧告が重視する「子どもの意見表明権」に、どう取り組んでおられますか。
  6. 学校でのいじめ、体罰、不登校などに、どのような対策を立てておられますか。
  7. 子どもの人権や権利が侵害されないように、どのようにしておられますか。
  8. 「子どもの権利条例」を制定したり、子どもの実態調査をされたりしていますか。
  9. 民間団体と協力しておられますか。群馬子どもの権利委員会に何を期待しますか。
 アンケートの集約は2006年10月、市町村からの回答をそのまま列挙した『結果の詳細』と、結果を要約し見解を述べた『要点と意見』の2冊にまとまりました。要約の柱は子ども行政の一元化など5点で、『要点と意見』の主要部分はこのあと掲載します。
 このアンケート結果を踏まえて、群馬県と市町村を訪問し、話し合うことにしました。2007年10月までに群馬県、前橋市、藤岡市、富岡市、館林市、沼田市を訪れ、いずれも実りのある意見交換ができました。今後とも続けていきたいと思っています。
 自治体側は、主として教育委員会と子ども課(またはそれに準じる部署)が対応しました。前回と比べて、アンケートも詳細な結果をそのまま出しましたし、自治体側の対応も具体的になりました。資料が用意され、話す内容も整理されていました。
 話し合いはお互いの理解を深める点で有益でした。群馬県が『人権教育指導資料』に子どもの権利条約の全文を載せて、指導案例の中で条約を扱った事例を紹介し、中・高学習教材には『共に生きる』も用意していることを知りました。藤岡市との懇談の中では、子ども課が示唆を与えながらも子どもたち自身が協議して、独自の「子ども憲章」を子ども議会で制定し市議会が追認した経過が明らかにされました。子どもの権利委員会も、自作の「子どもけんりカルタ」などの資料を自治体に紹介して、関心を呼びました。
 自治体訪問が子どもの権利に対する当局の関心を高めるのは言うまでもありませんが、地域に住む権利委員会の会員と世話人会との結びつきを強める効果もあります。話し合いの日時の設定も含め、地元の会員にはお世話になりました。特に館林市訪問では、地元から8人もの会員・非会員が話し合いに参加し、懇談の内容が深まりました。
 国連勧告が国から通達されず、県も市町村に知らせていないため、各市町村では勧告がほとんど理解されていないという困難な状況もあります。行政の立場と子どもの実態をどう繋ぐか、自治体訪問を続けながらさらに考えていきたいと思います。

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第2回市町村アンケートの結果の要点と群馬子どもの権利委員会の意見

  1. 子ども行政の一元化
     前回のアンケートでは、教育部にこども課を設けて子ども行政の一元化をはかっていたのは太田市だけでしたが、今回は太田市のほかに館林市がこども福祉課を設け、藤岡市も2004年4月から健康福祉部に子ども課を設置しています。前橋市も保健福祉部に児童家庭課があり、渋川市は社会福祉部に子育て支援グループを置いています。
     専門の部署はとくにないと回答した場合でも、たとえば桐生市にこども育成課があり、高崎市は児童保育課や家庭児童相談室を置いています。玉村町も児童家庭課を置いているなど、子どもを意識した行政の姿勢は県内各地でかなり見られます。
     このように子ども行政の一元化は進んできていますが、子どもや児童を掲げた部署がない場合は、健康福祉関係の部課、教育委員会の学校教育課や生涯学習課、住民部の人権課などで、子ども関係の仕事をしています。なおいっそうの一元化が望まれます。

  2. 条約の広報と職員の研修
    1. 国連からの第2回勧告に関して、県からの情報や通達があったと答えたのは4町村
      (市は皆無)にとどまり、他に「なかった」か「不明」で、無記入も多く見られました。かりに県が情報を流していても市町村に行き届いていないことは事実で、県はあらためて通達を出すなどして周知に努めるべきでしょう。
       国や県からの情報や通達のかわりに、多くの市町村ではインターネットやマスコミから情報を得ています。このアンケートで初めて国連勧告のことを知り、関係方面のホームページにアクセスした場合もいくつかあるようです。
    2. 市町村が行なう住民への広報についても、国連勧告はおろか、子どもの権利条約自体を知らせ広めることもけっして活発であるとは言えません。前橋市作成のパンフレット『人権の尊重』や板倉町のリーフレットに見られるように、人権問題全般の中で行なっている場合がふつうです。
       なんらかの広報を行なっていると答えた市町村は約27%で、前回の約35%からむしろ後退しています。子ども自身や外国人を対象とした広報も今回は見当たりません。
       その中で、伊勢崎市は人権教育のための国連10年「伊勢崎市行動計画」を策定し、子どもの権利条約に関して対応しています。榛名町も全26ページにおよぶ同様の「榛名町行動計画」を作成して、これを配布し普及をはかっています。
       子どもを巻き込んだ痛ましい事件が多発している昨今、住民への広報が後退の傾向にあることはまことに残念です。子どもの人権や権利に対する住民の意識をもっと高めるために、市町村当局はいっそうの努力を払うべきではないでしょうか。
       また、子ども自身が自らを人間としての権利を持つ独立した人格と意識し、自覚に基づいて行動するために、学校教育だけでなく行政が直接子どもへの広報に力を入れることも必要でしょう。これは子どもが犯罪から身を守ることにもつながります。
    3. 公立学校職員に対する研修は人権教育全般の研修として行なっている場合がふつうですが、約54%の市町村が実施していると答えています。前回は約37%でしたから明らかに前進しており、喜ばしいことです。しかし、「子どもの権利条約」に特化した研修があると読み取れるところは、前回が3市町村、今回は4市町村でした。
       社会教育職員に対する研修も、前回はほとんどと言えるほど見られませんでしたが、今回は住民や一般職員への啓発をも含めて、約22%の市町村から実施しているという回答がありました。

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  4. 子どもの意見表明と社会参加
     渋川市、沼田市、伊勢崎市など6市と甘楽町、榛名町、笠懸町の3町が「子ども議会」を開催し、安中市は「市長と語る会」を設けて、子どもたちに意見表明の場を提供しています。毎年定期的に実施している自治体も目につき、うれしいことです。これは全体の約24%にあたりますが、前回は約16%でしたから、前進と言えましょう。

     しかし、実際に子どもセンターや児童館などの建設や運営に子ども自身が関わっている例は、残念ながらほとんどありません。そもそも児童館などの施設がない場合が多いし、施設があるか建設予定と答えた6市2町でも、建設や運営に子どもの参加はほとんど見られないのです。

     その中で伊香保町は、児童館の行事に高学年生を係員とし、運営の補助に当たらせています。太田市がボランティア的な子どものクラブを作り、行事の手伝いや自主的な活動で児童館の運営に関わらせていること、高崎市も2006年に竣工予定の児童センターで、異年齢の子ども同士が交流するクラブを発足させ、クラブが企画した自主的なイベントなどを実施する計画でいることにも注目したいと思います。

     また、館林市は児童館と科学館の運営にあたり、参加者の活動希望などを聞き取って、事業計画に反映させています。前回アンケートでも児童館などの建設や運営に直接子どもが関わる例はありませんでしたが、子どもの意見を聞いて運営に生かすことはいくつか見られました。せめてこれだけでも行ないたいものです。

     子どもの意見表明権は子どもの権利条約第12条に明記されている重要な権利で、国連の第2回勧告でも「子どもの意見の尊重」と題する項目を設け、「子どもに影響を与えるすべての事柄について、子どもの意見の尊重および子どもの参加を促進し助長すること、また、子どもがこの権利を確実に認識できるようにすること」を奨励しています。

     子どもが自由に意見を表明できる場を子ども議会などで保障することはもちろん大切ですが、大人がその意見を尊重しなければ意味はありません。また、子どもに関わる施設や行事の運営に子どもが参加できるようにすることも、意見表明の保障に劣らず重要です。その意味で伊香保町の例や太田市などのクラブ活動方式は目をひきますし、そうした活動を通じて子どもたちは自己の権利を認識してゆくことでしょう。


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  6. 子どもの人権侵害の救済
    1. 学校でのいじめ、体罰、不登校などに対しては、約90%の市町村がなんらかの対策を立てています。前回は約75%でしたから、多くなっています。今回とくに何もしていないと答えた1町3村では、いじめその他の問題があまりないのかもしれません。しかし、そういう場合でも備えだけはしておきたいものです。  さて、対策の中心は相談の場所や制度を設けることで、各学校に相談室を置いたり、市の教育研究所で相談に応じたりしています。相談の担当者は専門の教育相談員で、スクールカウンセラーを学校に配置している場合も多く見られます。名称はさまざまで、「心の相談員」もいくつかありました。ボランティアもあれば、子持村のように村費で元教員に「生活アドバイザー」を依頼している例もあります。
       相談の形は来所(来室)相談や電話相談が主ですが、渋川市のようなメール相談もあります。不登校の子どもに「ふれあい学級」(館林市)、「にじの家」(藤岡市)といった適応指導教室を開いて対応している自治体もいくつか目につきました。
       苦情処理もこうした相談の中で対応していると思われ、今回とりたてて回答した自治体はほとんどありませんでした。その中で明和村が、保育園で苦情処理制度として第三者委員を委嘱していると答えています。
       いじめなどの問題で教職員に研修を行なっている市町村は約66%で、子どもの権利を含む人権教育全般の研修よりも約12%高くなっています。前回は約60%でしたから、前進です。研修の形も、「不登校講演会」(桐生市)や「学校人権講座」(倉渕村)の開催、教育委員会による子どもの人格を尊重する指導の徹底(富岡市)、各学校で生徒指導部を中心とする校内研修(吉井町)など、さまざまです。
    2. 学校だけでなく全般的に子どもの人権や権利の侵害を防ぐ対策としては、14の市町村が「子どもの人権専門委員」またはそれに準じる委員を置いていると答えています。その多くは人権擁護委員の職務の一部で、民生委員の中に子ども専門の相談員を設けている場合もいくつか見られました。これは全体の約34%で、前回の約37%よりもいくらか後退しているのではないでしょうか。
       人権専門委員を置いていなくても、また置いていても、家庭児童相談員やそれに類する委員を設けて対応している自治体はかなりあります。下仁田町や板倉町のように、人権相談日を定期的に設定して実施しているところもあります。倉渕村は独自の「児童虐待防止ネットワーク」を中心に対処しています。桐生市の家庭児童相談室では、2004年度だけで778件の相談がありました。
       学校でのいじめなどの場合も、一般的な子どもの人権侵害の場合も、子どもや保護者が気軽に相談できる場所と雰囲気を作ることが基本的に重要で、各市町村がそのためにさまざまな工夫をこらしていることが痛いほどよくわかります。問題があればどこでもだれでも安心して相談できるように、今後とも各自治体の努力が望まれます。
       こうした相談の制度があることを子どもや保護者に知らせる方法は、学校からの連絡と自治体の広報紙が主です。千代田町は「子ども電話相談」の存在をリーフレットにして、子どもたちに配布しています。外国人の子どもに対して日本語の指導をしたり、適応指導助手を配置したりしている地域もあります。

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  8. 子ども施策の原則
     子どもの人権や権利を擁護し発展させるという基本的立場を明確に表明するために、それぞれの自治体が独自の「子ども権利条例」を制定したり「子ども権利宣言」を採択したりすることは、意義深いことだと考えます。前回のアンケートではそうした条例や宣言を出している自治体は皆無でしたが、今回は藤岡市から「藤岡市子ども憲章」を2004年12月に制定したという回答がありました。喜ばしいことです。
     また、子どもの実態を把握しその願望や欲求を知ることは、適切な対応をするうえで欠かせません。その意味で子どもの生活実態調査は重要ですが、最近なんらかの調査を実施したのは7市町村でした。これは全体の約17%にあたり、前回の28%よりもかなり後退しています。調査の活発化が望まれます。調査事項は「留守家庭調査」(前橋市)「勉強・塾・宿題調査」(館林市)などさまざまでした。
     民間団体との協力では、伊勢崎市が市内3小学校でCAPプログラムをCAPin群馬の協力で実施しています。群馬子どもの権利委員会に対しても、さまざまな要望や期待が寄せられました。情報がほしい、情報交換を行ないたいという声が目につき、子どもの安全を守るため事件が起こる前に幅広く取り組んでほしいという期待もあります。教職員研修の講師としてお願いしたいという要請もありました。
     現在は民間団体との協力がなくても、子どもの人権や権利についてもっと知りたいし、民間団体と協力する道も探りたい、という自治体はいくつもあります。私たち群馬子どもの権利委員会もそうした民間団体の一つとして責任を痛感し、社会の要望や期待に微力ながらできるだけ応えていきたいと念願する次第です。
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