群馬の子どもの実態を報告する基礎報告書>2006-07 4

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I 保育の現場から

4 日本の子育てと国の保育政策について

下出 ふじ子(おひさま飯塚保育園)

 日本には義務教育開始前の6歳までの期間、「保育所(園)」と「幼稚園」の2とおりの保育機関があります。保育所で0歳〜6歳まで、最長で6年間保育を受ける子どもと、0歳から3歳までは母親が育て、3歳〜6歳まで、幼稚園で保育される子どもがいます。
 私は保育園で働いています。私たちの園では、子どもたちが健全な成長、発達することを保障しています。そのために、そのことだけで1年に6回、職員会議の中で一人一人の育ちを確かめ合うために、順調に育っているか話し合います。しかし、ここ数年は特に子どもたちの育ちに変化がおきています。 子どもたちの成長が今までのように行かなくなっているのです。それはなぜかと検証をしてみたら、家庭での子育て力が低下していて、親たちがどう育てていったらいいかわからないのです。
 生まれてから3〜4ヵ月くらいまでは目も見えはじめ、表情も出てきて、特に内的言語が話しかけることにより準備される時期なので、あやす(話しかける)ことが非常に大切なのですが、話しかけをすることを知らなかったり、また、目を見て話しかけることを知らなかったりということがあります。
 乳幼児の時期からビデオを見せたり、また授乳のときに携帯電話でメールを打っていたり、テレビの前に子どもを寝かせて自分はテレビゲームをしていたりする母親もいます。泣くので1日中抱っこしていて何も他のことができない、といったこともあります。女性の喫煙も飲酒も多くなっていて、どんなに危険なことか知らずに、妊娠中の喫煙や飲酒もやっていたりします。妊娠中から子どもたちは危険にさらされているのです。
 そのような状態で入園してくる子どもたちは反応が悪く、落ち着きもなく精神的に安定していないことが多いのです。入園の時点ですぐ何か問題を感じていても、すぐにはそのことに踏み込めません。信頼関係ができてこないと、こちらの言うことを受け入れられないからです。
 私たちの保育園では朝7時10分から夜の7時10分まで保育しています。父母のお迎えが5時くらいから始まります。そのお迎えのときに子ども一人一人の育ちに合わせて、保育園での子どもの様子を伝えながら、子育てのアドバイスや生活のまわし方のアドバイスや悩み相談を、担当の保育士が保育とともにおこなっています。保育園と家庭とで育てているので、父母に子どものことを理解してもらうことは、子どもが育っていく上で、非常に大切なことなのです。子どもの育ちを理解して、子どもに適切に働きかけをしていかないと、順調に育っていかないのです。子どもが育つということはどういうことか親に学んでもらうこと、そして親になってもらうことが保育園の大きな仕事の一つでもあるのです。
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 今、親から親への子育ての伝承が途絶えつつあり、地域の子育て力も失われつつあり、保育所は子育てを伝承するだいじな機関になっています。
 また、入園児だけでなく地域の在宅の母子に対しても、子育て支援事業を行っています。0歳から3歳未満児の時期、特に1〜2歳児の、自我が芽生え、駄々こねがはじまり、言葉で自分の意思を伝えられないで大人が手を焼くこの時期に、虐待が多く発生しているのです。何度も何度も同じことを繰り返し行動しながら学び取っていく時期で、子どもの発達の過程なのだ、ということを教えてくれる人が必要なのです。ですから、その間の子育て支援が大変重要なのです。一人で子育てしている在宅家庭の母親たちは、子育て支援センターに来ることによって、子育てを学び、不安も解消していっています。また同じような子育て中のお母さんたちとも知り合うことにより、友だち作りもできて子育ての輪が広がっています。
 今、日本は少子化が進んでいて、安心して子どもを生み育てられる環境作りが必要とされています。そのためには安心して預けられる保育所と子育て支援が必要です。私たちの園では子どもを預け始めると安心して子どもを生み育てられると思うようで、2人は普通に、3人、4人、と生む家庭も多いのです。
 私たちが子どものために良い保育ができるのは、戦後から始まった日本の保育制度があるからです。日本の保育制度は決して充分とは言えませんが、国費、県費、市町村費その3箇所から公費が出ていて、日本中どこへ行っても同じ水準の保育が受けられるのです。これは世界に誇れる保育制度と言えます。保育所には公立保育所と法人格の私立保育所があります。公立保育所は人件費に対する公費が高いので職員の給与が私立保育所の職員と比較すると高くなっています。また主に都市部では保育所の人員配置基準が高く、保育所に使われる公費の割合が高くなっています。これは現場からの切実な要求運動があり、その保育運動が実ったからです。
 今、その制度を国は経済効率優先の安上がり保育政策に替えようとしています。また、財界の強い要求を受け入れ、保育を市場開放しようとしているのです。そのために公立保育所の民営化が日本中に広がってきています。そして私立保育所をアメリカの保育所と同じように公費を削減し、企業が参入しやすいように直接入所、直接契約方式を導入しようとしているのです。私たち保育関係者、保護者はその政策に対し、葉書、ファックス、メールなどで抗議運動や反対運動をおこなっていますが、国の政策実行の力も加速していて、現行保育制度解体も時間の問題です。しかし、一方では、民営化に対して保護者が市や区を相手に訴訟を起こしている所もあります。判決は、民営化そのものに対しては違法ではないが、保護者や子どもたちに不安を与えたと罰金20万円を支払うよう命じる、という結果が出て、民営化を実施しようとしている自治体に足踏みをさせる影響を与えています。
 日本の未来を引き継ぐ子どもたちが健やかに成長、発達していくために、現在の保育制度は改悪してはならないものです。そして子どもたちのために、現行保育制度を堅持、拡充していくことが、私たち保育に携わる者と親たちの強い願いです。

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