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 第76号(全12ページ)からの転載です。

パートナー通信

パートナー通信タイトル
2019年1月 /No.76(通算92号)

シリーズ:
 『子どもの権利条約31条:
  余暇・休息、遊び・体験、文化・芸術』-②
ありのままでいられる森

写真

はじめに
 私どもNPO法人あるきんぐクラブ・ ネイチャーセンターは、群馬県北部の川場村山中に拠点を置き、春夏秋冬、一年を通して"野遊び・森遊び"を提供することを生業(ナリワイ)としております。主な活動として、ほぼ毎週末主催のイベントを企画し、運営しております(2018年度は48回)。対象は『0歳~100歳まで』と年齢層は特に絞らず、できるだけ枠を決めず、興味のある人がピピっと来たイベントに参加してもらうカタチで柔軟に運営しています。普段の週末はファミリーでの利用が中心ですが、学校の長期休みには子どものみを対象(小学1年生~)とした合宿やキャンプを行っており、そこに、私たちの"子ども観"や"自然観"を詰め込んでいます。
 今回、【居心地のよい居場所と自由なあそび】というテーマでの原稿依頼を頂きましたので、最もふさわしいイベントを簡単に紹介させていただこうと思います。それは、毎年夏休みに実施している、森の中での「2週間のノンプログラムキャンプ」(以下、サマーキャンプと表記)です。

 ノンプログラムというのは、大人が子どもたちを楽しませるための決まったプログラムはありませんよということであり、それはつまり、『プログラム(その日その時の行動)は、自分で決める』という意味です。自分の一日は自分のもの。自分で考え、自分で判断し、その日その時芽生えた衝動に従って過ごして良い、そういうキャンプです。
 就寝時間も起床時間も、決まりとしては何もありません。歯を磨かなくても、 お風呂に入らなくても、服を着替えなくても、それはその子の選択として認められます。全体のルールとして決定的にあるのはたったひとつ『死なないこと!』だけ。
 子どもたちの生活の舞台は、樹齢100年を越えるミズナラの巨木に囲まれた森です。そして隣り合った場所には、かつて牛の放牧場だった草地が広がっています。全体の面積は約50ヘクタール。もちろん、電気はなく、水道もありません。森の奥に水源を持つ清水をためたタンクから、ホースで数百メートル引いてきます。トイレも単なる「穴」です。屋根は、みんなで森の木々の間に張るタープのみです。そんな森の中で、13泊14日の生活をおくる。それがサマーキャンプです。
 こうして場所や環境のことを書くと、「サバイバルですね」と言われますが、それは、私たちが目指す世界とはまったく違います。私たちが目指すキャンプは、"子どもたちがありのままでいられる森で、当たり前に暮らすキャンプ"です。



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森の住人たちの暮らしぶり
 原始的な暮らしは、思っている以上に 忙しい。朝、太陽と共に目を覚ますと(もちろん時計は無いので、時間に縛られた生活は既にここにはありません)、まずは一遊び。早朝野球のこともあるし、焚き火の周りでゴロゴロ談笑のこともある。自分たちでつくったブランコで遊んだり、せっせと大工仕事している子もいる。
 食材配りの鐘がなると、前日に班のみんなで決めたメニューの食事の準備に入ります。食事班は子どもだけで、大人は関わりません。だから、同じ班の子がみんな起きているとも限りません。起こすか、ほっとくか、それもその班の選択如何です。朝からナタで焚き付けをつくって火を起こし、ご飯と味噌汁をつくる班もあれば、めんどうくさがってコーンフレークと牛乳で終わる班もある。それも、自分たちの選択ひとつです。ご飯を食べたら、虫を追いかけたり双眼鏡を手に鳥を探したりサッカー大会を催してみたり。中央にはみんなの掲示板があって、そこにはにぎやかに様々な大会のお知らせが貼られています。「野球大会」に「百人一首大会」、誰かが考えたオリジナルクイズや、落し物の案内などもそこには自由に貼られます。自由な表現の場が、キャンプサイト内には散りばめられています。
 昼が来ればまた料理の時間。竹を割って、流しソーメンに挑戦する班もあります。午後の暑い時間は、手作りのプールに飛び込んで、そのまま水着でサッカー大会。森でボーっとしてる子もいます。大きな川に行ったり、森の奥の洞窟探検に行ったりは、参加者を募って行きたい子+行きたい大人で出かけます。
 真っ赤に沈む夕日を眺めながらのご飯づりの後は、真っ暗な森の中にみんな のヘッドライトが光り、中央に焚かれた焚き火の元にふんわり集います。誰も集まれとは言わないけど、焚き火のあたたかい灯りに誘われ、夜の発表会が始まります。自分たちでつくった劇団や音楽隊の発表を、自由にできちゃう場所。恐ろしいくらいワケの分からないヒーロー劇団が炸裂することもあれば、練習に練習を重ねた何夜にも及ぶ長編骨太ドラマが繰り広げられることもある。楽器が好きな大人のアコーディオンの音に合わせて歌い、踊り、海外から来たボランティアの子のバイオリンが森に響く・・・そんなふうに流れていく、あっという間の一日。
 2週間のキャンプ中に、何度も思います、「嗚呼、2週間って、短い・・・。」

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<今>の連続の中で生きている
 キャンプを見守る大人たちの間で、大切にしている事柄がいくつかあります。その中でも特に大切にしていることは『子どもが自ら出来ること…に関してはハラハラドキドキしながら見守る』ということです。 その先にはこう続きます。大人は<未来>の為に<今>があるという脈絡で人の動きを組み立てようとするが、子どもは<今>の連続の中で生きている。その違いを埋めて、子どもから彼らの<今>を奪うことはここではできるだけしない。
  「ボーっとしたっていいじゃない、子どもだもの・・・(笑)」
 子どもたちは、時代が進むにつれ、次の行動を自分の意思で決める機会がどんどん少なくなっている気がします。 学校では時間割に従い、終われば塾だ習い事だと、毎日分刻みのスケジュール通りの日々。就学前の子さえ、今日は英語の日、なんて言ったりする。 子どもたちの<今>は、今や大人に、社会に、用意されてしまったものばかりに・・・。
 子どもには『遊び』が必要とはよく言うけれど、最近子どもに「普段なにして遊ぶの?」と聞くと、帰ってくる答えの多くは、ルールも勝ち負けもはっきりしたスポーツ、もしくはITな世界が牛耳るピコピコゲームと、さすがに少しさみしい感じ。遊びの定義はいろいろありますが、大事な要素は「自由で、非生産的で、目的をもたないものである」とのこと。本当の意味での『遊び』は今の子どもにはなく、時間的な「遊び(ゆとり)」もない、これが現状のようです。


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浮世離れした我らがサマーキャンプ
 2018年のキャンプ、5日目の朝のできごとです。
 子どもたちが朝起きるなり「昨夜、S(中学生思春期真っ盛り男子)の恋バナ(恋のお話)がうるさかった!」と口々に怒りを訴えていました。「よし、みんなで復讐をしよう・・・」と自作の竹槍の先を紙やすりでギンギンに削りながら血気盛んなことを言っている輩も登場したので、(めんどうくさいことになる前に・・・)『公正なお仕置きをす るためには、公正な裁判でし ょ』と軽く思いついたことを 言ってみると「それだっ!」 とみんなでスイッチオン。そこからの子どもたちの動きの 早いこと。
子ども写真  手分けして森の奥に裁判所 を建設(イスを運んだだけで すが)、裁判長を決め、「静 粛に!」というときのための木槌(ガベルというらしい)を手作りし、起訴状をつくり、掲示板には早くも「歴史を変える裁判、開廷!」などと書いた新聞記事まで貼り出される始末。
 容疑者のSは朝起きるなり(自称)警 察に取り囲まれ、あえなく御用。でもそこは捕まるほうも百戦錬磨のキャンプ経験者。開口一番、「弁護士を通してくれっ!」と返すスゴさ・・・(笑)。Sはその 後、食事をとりながら最強弁護団を結成。そのまま決戦の舞台は裁判所にうつり、世紀の裁判劇が繰り広げられました。入り口には門番が立ち、記者席が用意され、傍聴席には整理券まで配られる。最後の 判決の際にはしっかりと裁判員制度が採 用されていました・・・。
 おもしろい。実におもしろい。一人一人が勝手に、でも全体としてより楽しい方角へ向かうベクトルに乗って、それぞれが生き生きと森を駆け回っている。これこそ、「自由で、非生産的で、目的をもたない」営みの極み。これこそ、最高の遊びだ・・・とそのとき思いました。

 このように子どもたちは、時間の制限や大人社会による限界、手軽に時間つぶしができるグッズなどが一切ない"THE・森"という世界で、『自由な自分たちの遊び』を通して居心地のいい空間を つくりあげていきます。創造的な遊びは、 その場にいるみんなが主役たりうるし、同時に脇役たりうる。長所も短所も、個 性もクセも、みんないっしょくたに包含 できるおおらかさが、『遊び』 の世界にはあると思います。
 一見「サバイバルみたいですね」と言われてしまうような場所で、居心地のいい空間にまで昇華させていくのは、大人では なく、子どもたち自身です。子どもたち自身の、おおらかな楽天性と、たくましいまでの適応力、そして本来兼ね備えた『遊ぶチカラ』だと思います。毎年、2週間のキャンプを通し、子どもたちのスゴさを見せつけられています!

 もっとイロイロ伝えたいことはありますが、嗚呼、もう紙面に限りが・・・「足くさコンテスト」の話や、「ギョウザ総選挙」の話、「夜のシカ狩り伝説」の話などは、またの機会に・・・ 。

NPO法人
あるきんぐクラブ・ネイチャーセンター

 ホームページ :http://morigasuki.org/
 ブログ「森が好き」:https://blog.goo.ne.jp/kami nari56

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