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 第75号(全12ページ)からの転載です。

パートナー通信

パートナー通信タイトル
2018年10月/No.75(通算91号)

シリーズ「保育園は今―④」
「よりよい保育のために」
おひさま飯塚保育園 園長 神戸かおり

はじめに
 保育園の毎日毎日=こどもたちも保育士も、さんぽしたり、砂やどろんこであそんだり、リズムをしたり、絵を描いたり、元気に走り回り、転んで泣いたり、ともだちとぶつかってけんかしたり怒ったり、でもすぐ笑ったり=本当に毎日いろんなハプニングがあります。でも、私たちは目の前のこどもたちとそして保護者にしっかり向かい合い、職員で力を合わせ、一生懸命保育しています。
 保育という仕事は、豊かな保育の中でこどもたちが成長し、自分が出せ、発達していく姿があり、大変ですがその分、喜びも大きく、本当にやりがいのある仕事です。


こどもの命を守り、発達を保障する保育のために

 本当に一番大切なことは「保育の中で命を守る」ということです。しかし、それが保障されず、全国で、悲しいでは済まされない保育事故が起きている現実もあります。原因はさまざまではありますが、制度的な要因として職員配置基準や規制緩和の問題があります。
 そして、今保育現場の大問題の保育士不足についても、保育士さん一人が抱える責任の重さと過重労働の悲鳴が、保育現場から離れていく要因になっています。
 保育が命を守るという大前提のもと、こどもたちがおもいきり体を使ってあそんだり、野山をかけまわれる保育環境と、ともだちと関わることを大切にする保育ができるためには、保育士の配置基準の改善が早急に行われるべきです。


全国どの園でも、一人ひとりを大切にできる保育を

 認可保育園は、国と各自治体からの運営費+加算・補助金等で運営されています。この運営費の計算は「公定価格(各年齢別、こども1人当たり保育にかかるとされる価格)」と「職員配置基準(各年齢別、1人の保育士が受け持つべきこどもの人数の基準)」によって計算されるので、この2つがとても重要です。保育園の運営費に占める割合で一番多いのは人件費(保育士の賃金)ですから、保育士の低賃金の問題(全産業より月額10万円以上の差!)を改善するためには、この低い公定価格の引き上げと、ひ どすぎる職員配置基準の改善をする必要があります。
 現在、国の職員配置基準は保育士1人に対し、0歳児3人1歳児6人2歳児6人3才児20人4才児30人5才児が30人です。
 「ええ?!」と思いませんか?まず、保育士1人で赤ちゃん3人です。うちの園では0歳児クラスに2ヶ月~1歳11ヶ月の赤ちゃんが入園できますが、2ヶ月と1歳過ぎた子では手のかかり方が全然違います。国の基準は月齢に関係なく3人のこどもに1人の保育士です。そして、1歳になったとたん急に倍の6人です。これはもう、本当に大変です。無理です。


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加配の動きはあるものの
 この1歳児の国基準が非常に悪いため、全国で現場の要望・要求が各自治体を動かし、県や市の補助金が出ているところもあります。ちなみに群馬県は6人→5人、埼玉・長野の自治体で6人→4人、栃木県6人→3人、など加配している園には補助金が出ています。
 しかし、それでも不十分なため現場では子どもの命の保障と発達をきちんと保障するために、園独自で保育士を加配しているところがほとんどです。国基準では発達の違う2歳児の基準と1歳児が同じ6人というのも本当に納得いきません。
 そして3歳児になると急に20人になります。数年前からやっと15人になるように保育士を加配している園には加算が付くようになりましたが、依然として大元の基準の20人は変わっていません。そして4歳児では30人に保育士1人です。発達の違う4歳児と5歳児が同じ30人というのもおかしいですし、大体5歳児でも30人という基準は一人ひとりを大切にすることができる人数ではありません。
 私が保育士で年長組20人を担任していた時、20人を1人でさんぽさせていると「先生、こんなにたくさんこどもさんを連れて大変ですね!」とすれ違う方によく声を掛けられました。「はい、大変です!でも国の基準は30人なんですよ」と答えると「ええ!信じられない」と言われました。ちなみにフランスでは最大で15人です。
 また、保育園では保護者への丁寧な子育て支援もまたとても重要です。保育士や園長は子どもの保育と同じくらい、保護者の相談や子育ての支援など保護者へのはたらきをしています。しかし、国から、丁寧に支援してください、ゆっくりな子の発達を保障しなさい、地震や災害の時に命を守りなさい、とたくさんの通達はきますが、そのための人員加配や制度的な保障は行われていません。
 私は園長になってまだ3年目で、力もなくまだまだですが、今、ほんとうに私たち現場の声を大きく広げ、保育予算を増やして、保育士・保育園職員の処遇を改善することが待ったなしの状況で、できることはなんでもしていこうと思っています。

群馬県への働きかけ
 群馬県の保育協議会に現場の意見をあげ、県に要望した、1歳児の配置基準の補助増額の予算要望を紹介します。

 「保育所・園の1歳児クラスは1月~3月生まれの子は0歳児とほとんど変わらない発達だが、4・5月生まれは2歳になり小走りができる子もいるなど発達の差が大きい。そして歩行ができるようになると、こどもは自分で行きたい所に行けることを大きな喜びとする。また反対に動かない子は 一つの所にずっといて何かを見ていることを喜びとする時期である。
 こどもは自分の気持ちをちゃんと聞いてほしい、ゆったりと関わって欲しいと願っている。そして保育士も一人ひとりのこどもをちゃんと受け止めたいと願っている。1歳児のこどものやりたい気持ちを満たし発達保障しながら安全に保育するためには、こども1人に対して保育士3人は必要だというのが現場の実感だ。
 また生活全般で1歳児の発達の特徴である、何でも「イヤイヤ」「ジブンデ」という自己主張の芽生えが沢山でることが必要だが、それに対しての対応は難しく手間がかかる。こどもを育てるという仕事にとって手間がかかることは必要不可欠である。そして手をかけることで、1歳児の発達保障とともに心や感性を育み、安心して自己主張することが子どもにとっての幸せであり、その子の一生涯の自己肯定感につながる。こどもの権利保障の観点からも保育士定数を考えて欲しい。
 またこの時期は父母を困らせることも多く「言うことを聞かない」から怒る・叩くといった対応の影響は大きく、「虐待」にもつながるため、保育士は保護者の悩みを丁寧に聞きつつ、発達の特徴を踏まえて子育て相談をすることが重要である。しかし、現在の保育士の処遇では十分な保護者支援を行うことは困難だ。これを少ない人数で担っていることからの疲労と心労も保育士の離職につながっている。群馬県内の保育所・園で安全安心に、そして発達を保障する豊かな保育が受けられ、保護者が安心して子育てと仕事の両立ができることが県の少子化対策としても有効と考える。
 以上の観点から、1歳児保育士定数5対1の低年齢児保育補助金では不十分であり、まずは4対1になるよう、保育充実促進費・低年齢保育補助金の増額を強く要望します。」

皆さんの声を集めて
 私たちの園も加盟している群馬保育問題連絡会では今年も「こどもたちによりよい保育を!」全国保育充実署名活動に組んでいます。職員と保護者で目標9000筆をめざして、知人、友人に声をかけたり、地域を回ったり、街頭署名にも取り組んでいます。
 ぜひ、この「よりよい保育を!署名」にご協力をお願いします。この署名をたくさん集めて、各園の代表が国会請願するための紹介議員になってもらう要請のために11月2日に国会議員会館に行く予定になっています。保育の予算はこどもの命と発達につながるものです。堂々と声を大きく広げ、活動していきたいと思います。


(写真はおひさま飯塚保育園のホームページから)

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