資料・報告書>パートナー通信

トップへ
基礎報告書パートナー通信アンケート総会その他

 第75号(全12ページ)からの転載です。

パートナー通信

パートナー通信タイトル
2018年10月/No.75(通算91号)

新シリーズ:
 『子どもの権利条約31条:
  余暇・休息、遊び・体験、文化・芸術』-①
「森の中で育つ子どもたち」
NPO法人あかぎの森のようちえん  
理事長 橳島隼人 
 今年の2月、ぐんま少年少女センターとの共催シンポジウム「子育てから子育ちへ~心地よい居場所と自由なあそびから~」で、子たちの遊びや自然体験の大切さを学びました。
 県内の様々な団体からその活動を紹介していただき、さらに学びを深めたいと思います。

はじめに

 2012年から赤城山の中腹にある国立赤城青少年交流の家で「森のようちえん」活動を始めて、6年目を迎えることができた。今まで、たくさんの子どもたちが森に遊びに出かけてくれ、子どもの遊びについて考える機会を多く持つことができている。
 あかぎの森のようちえんでは、大きく分けて3種類の活動を行っている。1つ目が幼稚園や保育園、こども園を対象にした依頼事業、2つ目が公募で親子・子どもを集めて行う主催事業、3つ目が子ども会や児童館、公的機関を対象にした受託事業である。
 今回はそれぞれの視点から感じる子どもたちの遊び・姿についてお伝えしたい。


森のようちえん

森のようちえん・写真1
 1つ目の事業である幼稚園、保育園、こども園を対象とした「森のようちえん」活動は、毎年50件近くの依頼をいただいている。園の中ではできない自然体験活動を提供することを目的とし、実施している。先生方と相談し、子どもたちにどんなことを体験させたいかを決めていく。特に人気があるプログラムは「沢遊び」「虫探し」「火起こし」「木登り」「秘密基地作り」などである。
 普段、自然の中で遊んだ経験をあまり持っていない子も、園にはたくさん通っている。そんな背景を持った子は、森の広場に着いてからしばらくの間、遊び出すことができないことがある。
 ある日遊びに来てくれたA君。周りの子がどのように遊ぶか様子を見て、仲の良い子が始めた遊びを真似するところから遊びが始まっていく。先生方にA君の普段の様子を聞くと、園ではボールを使ってみんなをまとめて遊んだり、遊具を使ってみんなで楽しい時間を作ったりしているらしい。どうやら、「何もない」環境で遊ぶことができないようである。その後の先生との話で、A君は何かしらを与えられないと遊ぶことができなくなっている、と先生も気が付かれていた。「毎日の保育で行う遊びについてヒントをもらいました。」という嬉しい言葉もいただいた。
 また、別の日に来てくれたB君は、自然への強い興味を持っていた。普段はおとなしく、園でもあまり目立たないと先生が言っていたが、森の中では人が変わったかのように遊んでいると驚いていた。B君は、とにかく生き物に興味があり森中を飛び回って虫を探しては捕まえ、じっくり観察し、逃がして次を探す、ということを繰り返していた。園で行っている遊びは体。を動かすものや、工作、音楽やその他、様々なものだそうだ。しかし、B君の好奇心を刺激し足りなかったのか、ここまで熱中して遊ぶ姿を見たことがないと先生も振り返っていた。
 自然の中で遊ぶことは、普段とは違う子どもの一面を引き出してくれるのだな、と大きな可能性を感じたことを思い出す。遊びに多様性があるからこそ、遊びを深めたり、幅を広げたりするための環境も多様であることが大切なのだと考える。
森のようちえん・写真2


クリックすると、このページの先頭へ移動します。

センス・オブ・ワンダー

 2つ目の活動は、一般公募で行っている主催事業である。現在は年間に40件近くの事業を行っているが、最近では特に親子を対象とした事業への人気が高い。
 事業終了後のアンケートを見ると、多くの保護者が書いていることがある。「自分たちでは体験させられないことを体験させてもらって良かった」という記述である。多くの保護者は「子ども時代にあまり自然の中で遊んでこなかった」と思っていることが読み取れる。実際に、森遊びの中では様々なスキルが求められる。サワガニを捕まえるのだって、持ち方がある。火を起こすにしても、薪の組み方や燃料の存在を知っていなければ火はつかない。危険な植物もあれば、食べられる山菜も山ほどある。生き物も無数にいるが、ほとんどが名前も分からない。大人だって、体験してこなかったことは知らないし、できないのだ。
 実際には、子どもたちにとって「名前を知ること」は必須でなく「特徴を覚えておいて、あとで図鑑で調べようか」と声をかけたりすることで、その場では満足することが多い。危険生物は教えて触らせないようにすることが大切であるが、それ以外は、知ることよりも多くのことを感じることが重要ではないかと、子どもたちの姿を見ていて感じる。
 「センス・オブ・ワンダー」という言葉のように、まずはそれがどんなものなのか、どんな匂いなのか、どんな感触なのか、自分が関わることでどんな変化が起こるのか(虫であれば死んでしまう、など)、ということを自分自身で感じることが、学びの土台となる。
 大人が知っていることは、自身の経験則から「こうすればいい」「こうしてはいけない」と子どもに押し付けてしまうことがある。だから、大人は知らない(フリ)くらいがちょうど良いのかもしれない。
 自身で体験したことは子どもたちの知恵となり、スキルとなりやすい。ここ数年でよく聞かれるようになってきた「非認知能力」も、幼児期の様々な体験から身につきやすいと言われている。体験することは子どもの権利であり、大人がその過程を奪ってしまっては学びの機会だけでなく、自己肯定感を下げることも分かってきている。主催事業で様々な保護者の方と出会い、いろいろな話をすることで思うのは、大人の在り方こそ変えていかなければいけない、ということだ。
 また、主催事業の1つである「森のようちえん~ほんわか~」では、親子で過ごす時間とは別に、子どもだけで森へ探検に行く時間がある。この時間への入り方は様々で、保護者の方と離れたくなくて泣く子もいれば、早く行きたくて振り返りもせず飛び出していく子もいる。いろんなタイプの子がいるが、どの子にも共通しているのは、戻ってきた時に充実した笑顔を見せてくれることである。
 子どもたちは何かを発見したり、今までできなかったことができたりすると、必ずと言っていいほど近くの大人に報告をしてくれる。自分が感じた想いを共感してほしいのだろう。子どもと離れていた保護者の方は、わずかな時間で変化したお子さんの様子を感じ取って、一生懸命話を聞いてくれる。そのことで子どもたちも、さらに「話したい」と積極的になっていく。子どもの遊びを深め、感性を高めていくには、やはり「受容」と「共感」が大切であるな、と思える場面である。


クリックすると、このページの先頭へ移動します。

自分を変化させる

 3つ目の活動は様々な教育機関からご依頼いただく活動である。少しずつ学童クラブや児童館などから活動依頼が来るようになっている。主催事業と同じように指導員さんだけでは実施できない、というのが主な理由なようである。
 地域には様々な指導者がいるが、教育効果を狙ってプログラムを構成したり、非日常体験を取り入れることの価値を学んだりしている方が増えているように感じる。しかし、自分たちで実施することは難しいようで、指導者を探している。
 子どもたちは「非日常体験」として自然の中に飛び込んでくるが、環境が変わることで自分らしさを出すことができたり、お友だちの新しい一面を見つけたりすることができる。自然の中で過ごすことは、子どもたちにとって「自分を変化させる」きっかけになったりするのだ。学童クラブは限られた空間と時間で、場合によっては様々な我慢をしながら過ごすことがある。自然の中に飛び出せば、いつもとは違う環境がそこにある。自然の中には「何もない」という人もいるが、こんなに多くのものがあるのは自然の中くらいではないか、と思うくらい子どもたちは遊びに熱中していく。時間を忘れて、休憩することもなく遊び続ける姿を見ていると自然の力の偉大さ、柔軟さを感じる。
 子どもたちが健全に育つためには「時間」「空間」「仲間」の『三間』が必要だと言われているが、自然体験では『三間』を提供しやすいのだ。みんなでやってきて、遊びを通して表情が明るくなっていく子どもたちを見ていると、その重要性は明らかである。

森のようちえん・写真3
 様々な場面で子どもたちが遊ぶ姿を見ているが、どの子も環境に馴染めれば意欲的になっていく。スタッフと心が通えば、不安を吹き飛ばして全力で「楽しい遊び」へ向かう力を持っている。大好きなお父さん・お母さんが受け止めてくれるから、どんどんチャレンジすることができる。いつも感じるのは、自然の力の大きさである。だが、自然の力だけでは、子どもの心を豊かにするには、少し弱いのだ。大切なのは、環境が整い、その子が「その子らしく在る」ことを受け止めてくれる大人の存在があることだ。
 自然の力に頼りすぎず、子どもたちの成長や未来を願って、目の前にある小さな命と向き合って、育つ力を後押ししていきたい。自然の中で、自然体で過ごす素晴らしい子どもたちのために。


NPO法人あかぎの森のようちえん
問合せ先:info@akagi-moriyou.com
     https://akagi-moriyou.com/

クリックすると、このページの先頭へ移動します。
inserted by FC2 system