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 第78号(全16ページ)からの転載です。

パートナー通信

パートナー通信タイトル
2019年7月/No.78(通算94号)

2019年度「総会」の報告

 第2部 公開シンポジウム(午後) 
 私たちは、児童虐待の悲惨な事件が二度と起こらぬように願い3月14日に緊急の提言『子どもの命と心を守ろう』を発表しました。
 この提言を踏まえながら、危険な状況に置かれている子どもたちを助け、虐待を防止するための具体的な受け止め方や対応策を地域社会で共有しようと、今回の公開シンポジウムを企画しました。
 パネリストに、群馬県中央児童相談所所長の栗原真由美さん、DV被害者の救済活動をしているNPO法人「ひこばえ」の茂木直子さん、群馬弁護士会子どもの権利委員会の舘山史明さん、玉村おひさま保育園園長の西晴美さんをお招きして、群馬の現状、子どもを救うための取り組み、防止策、そして課題等を2回の発言に分けて提起していただきました。パネリストやフロアーからの発言を今号と次号に続けて紹介し、子どもたちの置かれている状況を具体的につかみたいと思います。

子どもや親は今どんな状況に

◎栗原真由美さんから
 群馬県の児童相談所の虐待相談受付件数は平成30年度で1374件で前年比21%増となっている。相談内容の内訳は心理的虐待49%、身体的虐待27%、ネグレクト23%、性的虐待1%。相談経路は警察から27%、近隣・知人から22%、学校から13%など。年齢別では小学生33%、3歳から小学校入学前28%、0歳から2歳20%、中学生12%、高校生7%となっており、未就学全体で48%になり全国的な傾向でもある。虐待者は実母50%、実父35%等となっている。
 虐待の背景には、子どもの側面では望まぬ妊娠・発達障害等から来る育てにくさ。生活の側面では経済的困窮・育児の負担感・夫婦間の不和。社会的側面では社会的な孤立。保護者の側面では精神的不安定・障害・被虐待経験・愛着形成がない、などがある。
 虐待の通告があると市町村や児童相談所は担当者全員の会議で対応(家庭訪問・保護者面談等)を検討し具体的な対応・介入(子どもの安全確認)や支援などを行う。重篤な虐待等で家庭におけない子どもを発見すると「一時保護」とする。平成30年度の実績ではおよそ70%の子どもたちが家庭復帰している。その場合は保護者に改善に向けた話の了解・納得を得て、関係機関との情報共有や見守り態勢が取れている。
 虐待をした親は子どもへのかかわり方が分からないでいる。児童心理司がかかわり方の支援などをおこなう。

◎茂木直子さんから
 2009年からDV被害者の救済を始めた。根底は男性の力と支配である。その力と支配を使って女性をコントロールする。自分の思う通りにする、それを家庭内暴力(DV)と言っている。それはたとえ1年に1回ぐらいでも「継続して起こる」のがDVで、加害者の行動サイクルがある。爆発して、そのあともう暴力はしないと反省しよくなったように見える。しばらくしてまたイライラが溜まってきて収まらず爆発してしまう。
 どうして被害者は逃げないのと言われるが、支配がある。洗脳されてしまう。オマエが悪いと言われ続けて学習無力症になっていたり、PTSDやうつ状態で体が動けなくなっている。暴力を振るう人が100%悪いのである。
 私たちは「加害者プログラム」という取り組みをしている。加害者でも何とか家族と一緒に暮らしたいという人が勉強している。まず自分がカッとなったとき体にどんな変化が起きるか、その症状を自分で捉えられるようにする。そうなったときにタイムアウトを取り、その場を離れましょうと教える。そうでないと暴力が止まらない。自分の中でコントロールできるよう教えている。暴力を振るう人には、親から暴力を振るわれたという人が大体半数いる。繰り返したくないと思っていても同じことをしてしまったと言う。自分の中を見てコントロールするのは難しいことなのだと思う。
 子どもに対する悪い影響がとてもある。「面前DV」と言う。目の前で母親がいじめられている。子どもの脳の中の視覚野が萎縮することが明らかになっている。見ているのに見ていなかったとか、長期記憶ができなくなるとかの障害が起こる。
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◎舘山史明さんから
 弁護士や司法に関わるところから虐待を話してみたい。
 司法は、起きた後、事後の責任とかフォローがどうしてもメインになる。虐待した親に刑事罰を与えるとか傷ついた子どもが親に損害賠償請求するとか、「責任を取らせる」ということ。
 家庭裁判所の役割が増えている。親権停止、親権喪失、親権者辞任、子がどちらかの親の親権に服することになるので親同士がもめる、子どもが親と会うのは子どもの権利だから調停する面会交流、親の意思に反して子どもを児童養護施設に入れる手続などなどがある。しかし、従来こういったことの主体は誰かというと「親」であった。子どもは親についてくるもので必ずしも主役ではなかったということが分かっていただけるかと。
 弁護士はこれらの手続に代理人として関わることができる。今までは親とか被告人の弁護人として関わることが圧倒的に多かったが、子どもの代理人になれるという制度ができている。例えば虐待された子どもの両親が逮捕されてしまった。一時保護されることになるが、子どもの代理人として児童相談所や福祉機関と連携しながらフォローしていける。
 児童虐待防止法や児童福祉法によって弁護士にも通報義務がある。守秘義務よりも優先すると定められている。
 子どもと親の利益が相反してしまうことが多々ある。必ずしも一致しないという場合、子どもの権利実現のために、子どもの意向に沿って、専門的な立場から法的知見を駆使して主張し、関係機関と連携する。これがこれからの非常に大きな核になると思う。
 スクールロイヤー制度もある。いじめ問題で叫ばれ始めたものだが、学校にはさまざまな問題が発生する。法的観点で学校にアドバイスする。報道で、学校や教育委員会があり得ない対応をしたなどと叫ばれるが、私見だが、先生が孤立してしまい、どうしていいか分からなくなってしまったのではないか。身近に弁護士がいれば相談を受けられる。

◎西 晴美さんから

 保育園は毎日子どもたちを目の前にして、朝から晩まで、泣き声とか笑い声とか、たくさんの子どもたちの声に包まれて、楽しく体を使って心を砕いて仕事をしている。
 保育にあたって私たちは、子どもの人権や主体性を尊重し、子どもの最善の利益のために保護者・地域社会と力を合わせて家庭支援を行う。子どもたちの豊な成長発達のために保育力の向上に努めるなどの理念を持っている。
 一番若いお母さんは19歳、一番年上は64歳のお父さん。多様である。でも共通しているのは「誰も子育てについて勉強してきたことはない」ということ。どこも教えてくれない。子どもの発達って知らない。2ヶ月の赤ちゃんのダッコのこと、離乳食のこと、6時に寝て8時に起きることなど、子どもたちを育てる以前にお父さんやお母さんを育てていくのも3つ目の大きな仕事になっている。
 1歳半ぐらいになると発達の過程でイヤイヤがいっぱい出てくる。当たり前で順調。でもお母さんは忙しいし、イライラして腹が立つ。立ち歩き始めた子どもの背の高さと大人の手のひらの高さがちょうど同じくらい。パンって手が飛びやすい。子どもたちは抵抗しながら大きくなっていく。発達は矛盾を乗り越えていくもの。そういうことも知らせていかなければならない。
 虐待につながる芽を育てないのも保育園の仕事。認知症で暴力を振るってしまうおばあちゃんと暮らしている兄弟姉妹。下の子は何かあると友だちにパンチ。キーッと声を出さないと自分を立て直せない。保育士は叱らないでずっと寄り添い自分で分かるよう丁寧な働きかけ。お姉ちゃんはお母さんが心配で泣いて離れられない。温もりが必要なのだと思い1時間ずっとその子を抱きしめてあげた。
 転園してきた3歳の子。トイレでオシッコができない。ウンチが出ない。精神的なことが原因と思われた。毎日下剤を飲んでいる。バスで音楽鑑賞に行くとき、保育士は着替えやタオルや雑巾をたくさん持って、自尊心を傷つけないようにどうしようかといろいろ考える。お母さんからよく話を聞いてみたら夫婦喧嘩で、どちらも心が幼い。どちらも自分の思うままにいろいろな事をやってしまうのが見えてくる。そういう家庭をまるごと抱えて毎日保育という仕事をしている。

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フロアーから児童相談所へ質問

◆児童虐待は児童相談所全体の業務のどのくらいを占めている:約11%になっている。
◆一時保護面接をどのように:虐待ケースでは、家庭でなかなか言えない事実・状況について、親からしっかり分離した、安心安全な中で、担当の福祉司、心理司、指導員等が面接、支援をしていく。親御さんには別に面接し、子どもの気持ち親の気持ちを全体的に勘案して今後の方向性を決めていく。
◆施設入所は:家庭復帰がおよそ7割。2~3割が施設へ。
◆強引な家庭復帰もあるのでは:子どもの意に反して家庭復帰させることはない。親が事実を認め、改善して行くという話をしていれば、子どもに伝えながら徐々に両方の気持ちや、その後の関係機関の見守りをしっかり確認し、継続的な関わり、支援を行うとの了解のうえで家に帰る。
◆虐待通告と警察との関係は:中央児相には現職の警察官が配属されている。物凄く拒否が強いような心配なケースではその警察官が一緒に訪問するケースもある。
◆48時間の確認は:国のルールでは48時間以内となっているが、群馬県では独自に24時間以内に確認するということでやっている。ただし、48時間を超えても確認できないケースも少しあるが、その後すぐに確認できた。
◆スタッフの労働時間・深夜の家庭訪問などは:基本的には勤務時間内に来てもらえないですかという働きかけをする。両親がお勤めの家庭が多いので難しい所も。一時保護は子どもにも親にもダメージが大きいのですぐに対応しないといけないケースとなる。その場合は夜間であっても、家庭訪問したり来所してもらったりをお願いするケースはある。虐待の場合は親御さんの状況に合わせていくケースが多い。
◆通告待ち。通告がなければ動けないのでは:他の事例では子どもや親からの相談で始まるが、虐待に関しては通告をいただいて対応するという、他とは違う。通告は、今、国民の義務と位置づけられている。「疑い」でもよい。確証がなくてもよい。そのことで罪に問われることはない。匿名でもよい。もし、心配だなって思われたら是非通告してくださいとお願いしている。
◆愛着形成について:愛着障害ということで、子どもにとって生まれてから唯一信頼できる親、家族から虐待されるということ、継続して行われるということでは、唯一の大人・保護者との愛着が結べないなかで成長してしまう。満たされないままの成長。愛着障害には2つのパターンが。1つは「ヘルプを求められない」。もう1つは「見知らぬ人にも無防備で寄っていってしまう。人との距離感が難しい。」


(文責:加藤彰男)

パネリスト2回目の発言やフロアー発言は
次号に紹介します。(編集部)     

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