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 第74号(全16ページ)からの転載です。

パートナー通信

パートナー通信タイトル
2018年7月/No.74(通算90号)

国連子どもの権利委員会から
日本政府に対して22項目の質問

  日本政府は昨年6月、「第4・5回政府報告書」を国連子どもの権利委員会(CRC)に提出しました。 CRCは私たちNGOが提出した報告書に目を通したうえで、改めて日本政府に対して22項目にわたる質問を出しました。「子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会『通信』」第13号にその質問の翻訳が紹介されましたので、了承を得てここに転載させていただきます。
 国連子どもの権利委員会が日本の子どもの人権状況にどのような関心を持っているか、あるいはまた、日本政府の報告のどこが不十分であったかなどが読み取れます。たくさんありますが、頑張って学んで、今後の活動に生かしていきたいと思います。文書中の「締約国」とは「日本政府」を指します。


日本政府第4・5回定期報告に関する質問リスト

              

一般配布用
2018年2月22日
原語:英語

子どもの権利委員会
第18会期
2018年1月14日-2月1日
暫定的議題 議題項目4
政府報告審査

 締約国は、最新の追加的な情報を、可能であれば2018年10月15日より前に、書面(最大10,700語)にて提出することが求められる。委員会は締約国との対話において、本条約に規定された子どもの権利のすべての側面を取り上げる。

第Ⅰ部

1.子どもの権利に関する包括的な法を制定するための計画があれば、情報を提供されたい。改正児童福祉法(2016年)が子どもの権利に与えたインパクトを説明されたい。「子供・若者育成支援推進大綱」(2016年)からいかなる教訓が得られたのか、また、締約国が同大綱の成果に基づいていかなる措置を取ることを予定しているのか、情報を提供されたい。

2.人権擁護法案の状況および本条約の実施状況を監視し、子どもの権利侵害に関する申し立てを受理することのできる国内人権委員会の設立に関する最新の情報を提供されたい。

3.女の子、LGBTの子ども、未婚の親の子ども、少数民族に属する子ども、民族的少数者の子ども、非日系の子どもに対する差別およびヘイトスピーチを廃絶することを目標とする措置に関する情報を提供されたい。包括的な反差別法を制定するための計画があれば、それについての情報を提供されたい。

4.あらゆる状況において、軽微なものも含めて、体罰を法律によって明確に禁止し、かつ、体罰を現実にも廃絶するためにとられた措置に関する情報を提供されたい。暴力および児童虐待、とりわけ、性的虐待の防止のために取られた具体的な措置に関する情報ならびに、犠牲となった子どもに提供される援助およびリハビリサービスの種類に関する情報を提供されたい。


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5.家庭から子どもが切り離されること、または、家庭から遺棄されることを防止し、子どもの非施設収容化を早め、里親または養親による代替的擁護を促進するためにとられた具体的な措置に関する情報を委員会に提供されたい。児童相談所によって運営されている一時保護所の評価のシステムに関する最新情報を提供されたい。離婚後に両親と関係を維持する子どもの権利がどのように確保されているのか説明されたい。

6.改正学校教育法のもとにおける障害を持つ子どものインクルーシブ教育の進捗についての情報を提供し、かつ、「特別支援教育」(special support education)が何を意味するのかを説明されたい。障害を持つ子どもの放課後デイケアの民営化および規制緩和のもとで、障害を持つ子どもの放課後デイケアに関する最低基準を改定するためにとられてきた措置を説明されたい。

7.高い低出生体重率を減らすための措置に関する情報を委員会に提供されたい。2011年の福島原発事故の後、被曝した子どもに提供される医療的援助に関する情報も委員会に提供されたい。

8.日本が現在採用している気候変動緩和政策が日本および外国における子どもの権利、とくに、子どもの健康、食料、および適切な生活水準に関する権利を保護する日本の義務にどのように適合しているのかを説明されたい。

9.子どもの貧困の拡大および子どもの貧困の拡大が子どもの社会的保護に与える否定的な影響に対処するためにとられた措置に関する情報を提供されたい。社会的再配分(social transfer)が子どもの貧困率を減らすために小さなインパクトしか発揮していないことの理由、および、社会的再配分をより効果的なものにするために締約国がいかなる実践的な措置を取ることを計画しているのか説明されたい。

10.乳幼児ケアの施設および乳幼児教育の質のための利用可能な資源を含む具体的な措置に関する情報を委員会に提供されたい。子どもをいじめから保護するための措置に関する情報を提供されたい。極度に競争主義的な学校環境がもたらす否定的な結果を緩和するためにとられた措置に関する情報を委員会に提供されたい。

11.難民申請をしている子どもの収容、または、親からの分離を防止するための法的枠組みを提供するためにとられた措置があれば、情報を委員会に提供されたい。難民申請をしている子どもの社会サービス( social service )へのアクセスに関する情報も委員会に提供されたい。

12.少年司法における本条約の完全な実施を確保するためにとられてきた具体的な措置を明らかにし、かつ、法に抵触した子ども、犠牲となった子ども、および目撃者となった子どもにいかなる再統合ならびに心理的援助およびサポートが利用可能なのかを詳細に説明されたい。子どもの予防的拘禁を廃止するための措置に関する情報を提供されたい。少年非行の原因に関する研究および予防的措置があれば、提供されたい。

13.子どもの売買、子ども買春、および子どもポルノに関する本条約選択議定書にかかわって委員会が前回に示した勧告(CRC/C/OPSC/JPN/CO/1)を実施するためにとられてきた措置についての情報を提供されたい。

14.子どもの武力紛争への関与に関する本条約選択議定書にかかわって委員会が前回に示した勧告(CRC/C/POAC/JPN/CO/1)を実施するためにとられてきた措置、特に、日本の自衛隊が国連平和維持活動に参加する際に、自衛隊員に選択議定書の規定に関する研修を提供するための計画について情報を提供されたい。


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第Ⅱ部

15.委員会は、締約国が報告(CRC/C/ JPN/4-5)において提供している以下の情報に関する簡潔な最新情報を提供するよう締約国に要請する。

  1. (a)新しい法案または法、および、それらの規則。
  2. (b)新しい組織(およびその任務)または組織改革。
  3. (c)最近導入された政策、プログラム、および行動計画、ならびに、それらの射程と予算。
  4. (d)最近批准した人権条約。

第Ⅲ部
利用可能な場合にはデータ、統計、およびその他の情報

16.過去3年間における子どもおよび社会セクター(social sector)に関連する統合された予算、ならびに、さまざまな省庁の予算に関する情報を、各予算の国家予算全体およびGDPに占める割合ならびに地域毎の割合を示して提供されたい。

17.地方および山岳地帯に居住する子どもを含めて、以下に関する子どもの数に関する過去3年の最新データを、年齢、性別、社会的背景、国民的および民族的出自、地域に区分して提供されたい。

  1. (a)犯罪毎に分類された暴力の犠牲となった子ども
  2. (b)親から分離された子ども
  3. (c)孤児となった子ども
  4. (d)施設および里親に預けられた子ども
  5. (e)国内養子縁組または国際養子縁組に付された子ども
  6. (f)児童手当・児童扶養手当(child support grant)の恩恵を受けている子ども

18.以下に関する過去3年の最新データを、年齢、性別、社会的背景、国民的および民族的出自、地域に区分して、提供されたい。

  1. (a)基礎的健康ケアシステムに配分された資源
  2. (b)乳幼児死亡率
  3. (c)低体重の乳児
  4. (d)肥満
  5. (e)10代の妊娠ならびに妊娠および出産に関する医療的および専門的サービスを受けている女の子
  6. (f)堕胎
  7. (g)自殺
  8. (h)薬物乱用
  9. (i)HIV/AIDSを含む性感染症


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19.締約国のすべての地域における障害を持つ子どもの数にかかわって、以下に関する過去3年の最新データを、年齢、性別、障害種別、民族的出自および地域に区分して、提供されたい。

  1. (a)家族と暮らしている子ども
  2. (b)施設に暮らしている子ども
  3. (c)乳幼児教育を受けている子ども
  4. (d)普通小学校に在学している子ども
  5. (e)普通中学校・高等学校に在学している子ども
  6. (f)特別学校に在学している子ども
  7. (g)学校に通っていない子ども
  8. (h)家族に捨てられた子ども

20.以下に関する子どもの数に関する過去3年のデータを、年齢、性別、居所、および犯罪毎に区分して提供されたい。

  1. (a)少年司法から解放された(diverted)子ども
  2. (b)公判前拘留されている子ども
  3. (c)予防拘禁に付されている子ども
  4. (d)刑に服している子どもおよび刑の種類

21.報告書に記載されたデータが、最新データまたはその他の新しい進展により古くなっている場合には、最新のものを委員会に提供されたい。

22.締約国は、以上に加えて、本条約の実施にあたって優先されるべきものと締約国が判断する子どもに影響を与える問題を列挙することができる。

子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会
事務局長・世取山洋介氏 仮訳
2018年3月25日

 みなさんが日常的に携わっているお仕事や活動に関わる項目、関心を持たれている項目があったでしょうか。
 「質問リスト」についての世取山氏の解説の一部を以下に紹介します。


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「質問リストについて」

世取山洋介氏の解説から 

◆委員会による丁寧な審査が必要とされる問題
 新しく取り上げられた問題、そして、質問がこれまで取り上げられながらもバージョンアップされた問題を見ると、委員会に注意深く取り扱ってもらわなければいけない問題がいくつかあることがわかります。
 第1に、児童福祉法の2016年改正については、この改正で、子どもの権利条約の精神にのっとってすべての子どもの権利が保障されなければならないことが規定され、子どもの最善の利益、子どもの意見の尊重、そして、親の第1次的責任にも言及がなされるようになったので、それを評価する向きがあります。しかし、親の第1次的養育責任だけを強調することによって、国の責任を後退させているということにも注目する必要があります。
 条約への言及や条約に規定されている文言を組み入れた法改正はこの児童福祉法改正が初めてではありません。それは少子化社会対策基本法と次世代育成支援対策推進法(2003年)から始まっています。このような法律は全部で7つあるのですが、一貫して流れているのは、子どもへの規律遵守の精神や、子育てに必要な経済的資源の確保に当たって親の第1次的責任を強調しているということなのです。このことは統一報告書の第4章「国内法改正をめぐる問題」において明らかにしてあります。
 第2に、昨今の代替的家庭環境の非施設化の流れについても、十分な条件整備、例えば、里親への研修や、里親に子どもが措置された後の経済的その他の支援を抜本的に強化しなければ、児童養護施設のリストラによる経費削減に帰結してしまう危険性が大です。この点も、統一報告書の第21章「社会的養護」において指摘しました。
 第3に、離婚後において両親と関係を維持する子どもの権利については、ドメスティック・バイオレンスへの対応を抜本的に強化しなければ、子どもの暴力から保護される権利をかえって侵害してしまうことになりかねません。
 第4に、障害児教育に関わって、委員会が「インクルーシブ教育(=統合)か特別支援教育(=分離)か」という二者択一の問題としてとらえている可能性もあるので、きちんと対応をしておく必要があるということです。このような二者択一の問題として日本の障害児教育の現状をとらえると、いずれにしても、子どもの特別なニーズが満たされていないという最も基本的な問題が置き忘れられてしまうことになります。障害を持つ子どもの教育は、親と子どもがそれをどこで受けるのかを選択するにかかわらず、その特別なニーズが満たされなくてはならないはずです。


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◆質問リストには取り上げられていない問題で取り上げられるべき問題
 質問リストでは取り上げられていない問題でも本審査では取り上げてもらうべき問題があります。まずは、日の丸・君が代の強制、教科書検定の強化や道徳の教科化による教育への国家統制の強化です。統一報告書では今回新しくこれらの問題を「子どもの良心の自律的な形成」という観点から包括的に分析する章を設けました(第32章)。予備審査の様子では委員会はこれらの問題に関心をもっているようなので、本審査ではこれらの問題を取りあげるよう働きかける必要があります。
 次に、ゼロトレランス策のもとで校則による子どもの行動規制が再強化されていること、学校懲戒が教育的措置としての実質を失い、行動矯正のための罰を与えるものに変質していること、そして、それと表裏一体的に、学校における子どもの参加がますます等閑視されていることです(統一報告書第14章「子どもの意見の尊重」、第17章「ゼロトレランス政策に基づく学校懲戒」)。これらについても、委員会は関心を持っていたようなので、忘れずに取り上げてもらわなければなりません。
 さらに、子どもの「自由な時間」です。統一報告書では 、新自由主義と新国家主義が 子どもの成長発達に与える弊害として、相互的な人間関係が剥奪されるばかりでなく、子どもが学んだことや経験したことを咀嚼し、次に自分が何したいのか、自分の新しい要求を作り上げていく時間が子どもから奪われることを強調しておきました(第1章「新自由主義のもとでの『子ども期の貧困化』」、第36章「余暇・遊び・文化」)。「自由な時間」という新しいコンセプトにも関心が寄せられているようなので、これまたプッシュする必要があります。
 そして、子どもに直に接して子どものために働いている大人の数と質に関する基準を含む、全国的最低基準を再構築する必要があることも取り上げてもらう必要があります。この点は統一報告書でまとまった章を置いて強調し(第11章「職員の定数と労働条件にかかわる最低基準をめぐる問題」)、予備審査においても強調しておきましたが、念を押しておく必要がありそうです。
 最後に、子どもの貧困に関わっては、子どもの貧困が、①労働規制緩和による収入減とワーキングプア層の拡大、②少ない再配分、③公租公課にかかわる負担の大きさ、そして、④公教育や保育への公費支出の少なさと私費負担の多さといういずれも政策により是正可能な事がらに起因しているので、再配分以外の政策にも光を当ててもらわなければならないということです。これらの点は統一報告書の第5章「資源の確保と配分」と第7章「子どもの貧困」で指摘しておきました。委員会には、再配分以外の問題、例えば、統一報告書で指摘した社会権規約の後期中等教育と高等教育の漸進的無償化の規定への留保を撤回したにもかかわらず、無償制実現のための施策がとられていないこと(第33章「中等教育および高等教育の無償制の実現」)にもメスを入れるよう働きかける必要があります。

〔「子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会『通信』第13号」から、了承を得て転載しました。〕


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